「ライト、ついてますか」を読んで考えたこと——問題発見の視点
先日、ジェラルド・M・ワインバーグとドナルド・C・ゴースの共著
『ライト,ついてますか: 問題発見の人間学』を再読しました。
本書は、単に「問題をどう解くか」を扱うものではなく、その前段階にある「問題をどう見つけるか」を考えさせてくれる一冊です。
その中でも特に印象に残ったのが、トンネルを通る車のライトを題材としたエピソードでした。
今回はその内容を紹介しつつ、私自身が感じた問題発見の大切さをまとめてみたいと思います。
「問題」とは
まず、そもそも「問題」とは何でしょうか。
本書では、次のように定義されています。
望まれた事柄と認識された事柄の間の相違
——「こうあってほしい」と「実際はこうなっている」のギャップのこと。
私たちは日々、この「ギャップ」を埋めようとしています。
ですが、そのギャップを正しく見極めることは実はとても難しい作業です。
トンネル問題の発端
トンネル内では車のライトをつけなければ危険です。
事故を減らすために、まずはこう考えました。
トンネルの入口に “ライトをつけてください” という看板を立てよう!
ところが、これを実行すると今度は別の問題が起こります。
トンネルを抜けてもライトを消し忘れる人が増え「バッテリーが上がった」とクレームが出始めたのです。
では出口に『ライトを消してください』と書けばいいのでしょうか。
そうすると今度は、夜でもライトを消してしまう人が出るかもしれません。
ならば『昼間ならライトを消してください』と書けばいいのでしょうか。
しかし、昼でも曇りや霧の日は暗いことがあり、これでは不十分。
どうすれば誰も間違えない表現になるか?
議論を重ねた結果、ついに完璧な文言を作り上げました。
もし今が昼間でライトがついているなら、ライトを消せ。
もし今が暗くてライトが消えているなら、ライトをつけよ。
もし今が昼間でライトが消えているなら、そのままにせよ。
もし今が暗くてライトがついているなら、そのままにせよ。
……正しいですが、こんなものを運転中に読む人はいません。
誰の問題か?
この話の本質は、誰の問題なのかを見誤っていた点にあります。
コンピューターに命令するなら、このような細かい条件分岐は正解かもしれません。
しかし、相手は人間です。
最終的に、看板の文言はたった一言に変わりました。
ライト、ついてますか?
ライトをどうすればよいかは、運転者には自明のことです。
思い出すきっかけさえ与えれば、これだけで問題は解決するのです。
複雑に説明するより、ほんの一言で「気づかせる」ほうが効果的だったのです。
本当の問題とは
著者によれば、多くの場合、
人々の頭の中のライトがついているなら、少し思い出させてやるほうが、長々と説明するより有効
なのだそうです。
私たちは仕事の中で、
- お客様は問題を提起する人
- 自分は問題を解決する人
と考えがちです。
しかし本書には、こんな一節があります。
『 もしその問題が誰かの問題であり、
他人が自分の問題を自分で完全に解けるとき、
あなたが解決しようとするべきではない。 』
つまり、「問題を自分のものとして捉え、自分で気づくように促すこと」も、真の問題発見への第一歩だということを示しています。
相手自身が問題に気づくように導くことも、立派な解決方法のひとつです。
まとめ
このように、本書は問題の本質に焦点を当てるためのヒントを数多く示しています。
他にも本書では、下記のような内容に触れています。
・人には「問題を解きたい」という自然な欲求がある
・それは誰の問題か?
・一つの解決策は必ず次の問題を生み出す
・環境への順応によって盲点が生まれている
・「本当に解きたい問題か?」と自問することが重要
これらは現代のエンジニアやビジネスパーソンにもそのまま当てはまります。
私自身も、仕事の中で立ち止まるきっかけとして、この言葉を思い出したいと思います。
問題を発見する力こそ、すべての出発点。
皆様の仕事の中でも、一度立ち止まってみてください。
ライト、ついてますか?
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